『三つの言葉 』 1989年 猪熊弦一郎 画 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵  C)公益財団法人ミモカ美術振興財団

 本来の金融の役割とは何でしょうか。それは「余っているお金を、お金を必要とされる所に回すことで、新しいサービスや雇用を産み、世の中を良くしていくお手伝いをする」ことだと思います。ところが実際はどうでしょうか。余ったお金が預貯金として積み上がり、預かった銀行も国債で運用するなど、ほとんど市場に出回ることはありません。

 現在830兆円という、世界でもまれに見る巨額の預貯金額を誇る日本ですが、このままだと30年でこの膨大な預貯金がなくなるとの指摘があります。理由は、所得や年金の減少に加え、金利の減少により、生活のために預貯金を取り崩さないといけなくなるからです。

 このような中、本来の金融の役割を貫くことで、未来を創りだそうとされている第一勧業信用組合理事長の新田信行様に、本来の金融機関のあるべき姿をお伺いしました。

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第一勧業信用組合 理事長 新田信行


金融はどうあるべきか?

 簡単なんですけどね。金融をビジネスや金儲けと考えるから解らなくなるのです。金融と言うのは公共的なものだと思えば、意外と答えは近くにあります。それぞれのメガバンクや生命保険、損害保険、あるいは証券会社は基本的に株式会社です。株式会社は「投資家に対してどれだけの収益、リターンを上げないといけない」かが最優先になります。一方、信用組合は、協同組織です。もともと利益追求の組織ではありません。

信用組合の歴史

 歴史的に見て、信用組合という形態ができてきたのは、ヨーロッパでも日本でも19世紀です。銀行は資本家と貴族のためのものでした。それ以外の街の商工業者、農村の人たちは結局、金を借りようとしても高利貸ししかいなかったのです。『ヴェニスの商人』ではないですけれども。それではたまらないということで、みんなで力をあわせて組合や組織を作って、みんなでお金を供出して、それを組合員に融通しようとして、作られたのが信用組合です。ですから信用組合はもともと非営利、相互扶助なのです。

 日本でも19世紀に2つあります。その一つは二宮尊徳の五常講というものです。もう一つは大原幽学という儒学者が先祖株組合を創りました。これが明治以降になってくると信用組合や信用金庫になっていきます。ですから、私たちは銀行のやらないようなことをやっています。具体的には、若者や女性の創業支援もそうですし、今やっている地方創生や街づくりもそうです。

若者にお金が回らない

 特に、今の若者に全然お金が回らないというのは問題です。これは何とかしないといけない。預貯金だけで830兆円位あり、ほとんど動いていません。個人の金融資産が1千600兆円もある国なんて他にはないですよ。これはやっぱり、信用供与している金融業界としても考えなければいけないと思います。

 今の金融機関は信用供与をどういう方法でやっているのか。これは2つだと思っています。格付けか、担保保証です。格付けを一言で言えば、3期分、5期分の決算書です。それと実績です。担保というのは資産を持っている人でないとダメということです。

 しかし、30歳で志を持って事業を始めようとする若者に、3期分の決算書も担保もあるわけがないのです。日本が年を取ったといいますが、このような実績主義というのは過去ばかり見ているのです。私たちは未来を見たい。未来を見る金融機関がないと、未来に対して何も投げかけられない。

 日本を元気にしよう、若返らせようと思ったら、国がどうだ、財政政策がどうだ、金融政策がどうだではなく、民間が未来を見なければどうしようもないのです。金融機関が未来志向で、そこに育てようという思いや、物事をつくろうといった創造性など、未来への意思を金融機関が持たないといけない。ということで、創業支援では今、都内では私たちが実質ナンバーワンになっていると思います。


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かんしん未来くらぶ(女性経営者の集い)

人材交流の場を提供

 それに、若い人はやはり人脈がないですから、交流を深めさせてあげたい。質というのは言葉を変えると付加価値だと思います。付加価値とは何だろうと考えると、私は繋がることだと思います。異質なものが繋がる、連携する。そこに付加価値が生まれます。男と女がいないと子どもは生まれません。自分ひとりでは生めないですね。そういった場として「かんしん未来くらぶ」があります。経営者同士どんどん交流しなさいというイベントも開催しています。

金融機関初のアクセラレータープログラム

 さらに、金融機関初のアクセラレータープログラムを始めようと思います。これは欧米では非常に多いのですが、アクセルを踏む人、いわゆる起業しようとする人たちを後押しする、頑張ろうとしている人を応援するプログラムです。最初から私たちが全面的にバックアップする。信用供与をするよ、ということです。後は、周りのコンサルタントだとか、そういった人たちがついてくればいい。このようなプログラムを実行したいと検討しています。

東京発の地方創生

 もう一つ力を入れているのが地方創生です。地方創生はそもそも地方だけじゃ完結しません。地方創生のいろいろな施策を展開しようとすると、東京とのアクセスが不可欠なはずです。私の知る限り、東京発の地方創生はあまり聞きません。皆さん地方創生は地方の問題だと考えているのではないでしょうか。

 信用組合は全国で150あります。150の組合で、北海道から沖縄まで1700の店舗があります。信用組合の理事長会に行くと、地方の信用組合はみんな頭を抱えています。私たちは相互扶助です。相互扶助ということを理念にしている信用組合が、困っている仲間の信用組合に、なぜ手を差し伸べないのか。ということで「地方と東京を結ぶ組合」を私たちのスローガンにしています。そこで、本店の2階を地方連携オフィスとして、地方に解放しています。もし、採用面接やあるいは商談などをするのであれば、ぜひ、ここを使ってくださいとご案内しているのです。

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本店2階にある「地方連携オフィス」

原点は街づくり

 元々私たちの原点というのは、街づくりなのです。街が住む人にとって住みやすく、商店の人も活気がある、そういう良い街づくりです。どうやってこの街、このシャッター通りを活性化させるか。それと、まだ手は出せていませんが、医療や介護、保育も地域密着の私たちが金融業務という枠を超えて、街のために汗をかくことがあるのではないかと思います。

 融資も直接一対一でしていただいても構わないのですが、やっぱり信用組合という協力機関が間に入ることによって、物事が上手くまわります。パン屋がある、魚屋がある、メガネ屋がある、そういう商店街の商店街会長にも入ってもらう。町会長にも入ってもらって、「あそこを応援して欲しい」という所にお金を融通することがそもそもの私たちの役割なのです。街の裕福な方に、信用組合にご預金をいただく、それを私たちが地域の人が応援したい資金が必要な人たちにご融資をする。信用組合というのは元々そういう存在だったはずなのです。

マイナス金利は関係ない


 今回のマイナス金利をどうしますかと言われても、私たちは元々債券運用してないのです。資金需要が山程あると言っても、「嘘でしょう?」と。どこの金融機関へ行っても資金需要がないといっています。それは3期分の決算書と担保を持っている会社はお金を持っており、無借金会社になっているからです。彼らは資金需要がないと言っているだけ。赤字の会社や、これから会社を立ち上げる人の資金需要先はいくらでもあるけれど、ただその資金需要に対して誰も目を向けないだけなのです。誰もやらないから私たちの所に来るので、どんどん貸し出しが伸びてしまう。私たちもそういった所にお金を回すのに必死で、余計な運用をしているお金が全然ないのです。だから「マイナス金利の影響はどうなんですか」と聞かれると全く関係ないといえます。

信用組合は地域の一部

 金融機関は、お客さんや街を金融マーケットから守らなければいけないと思っています。マーケットのショックを私たちが和らげないと、今の動きは激しすぎて皆の生活が守れません。信用組合は組合員から預金を集め、組合員に貸すことなので、マーケットから切り離された存在として生きていけます。株式会社でもなく投資家の資本が入っているわけでもない。預金や貸し出しをマーケットから資金調達をしているわけでもありません。信用組合のバランスシートは資産も負債も資本も全部組合員のお金で構成されているのです。そんな私たちがマーケット金利を転化するのはおかしいでしょう?だから、日本銀行がマイナス金利だからと言って、それをすべて預金金利に転嫁することはしないのです。しかも、そもそも信用組合は日本銀行の口座を持っていません。日本銀行のマイナス金利にしても別に私たちは全然問題ない。だから私たちの所は預金金利据置です。今だってかなり安いですからね。

 地域信用組合っていうのは、その地域から出られないのです。私たちも東京都から出られません。要はヒット・アンド・アウェイができる存在じゃなくて、私たち自身が地域の一部だということですね。だから、お祭に出ると「お祭に来てくれてありがとう」って言われるけれども、私たちは街の一員なのだから、神輿を担ぐのは当たり前なのです。


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牛嶋神社祭礼(向島支店)

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さんま祭(目黒支店)


志のある素敵な方々との深いお付き合い

 私たちの仕事は少しでも多くの志のある素敵な方々と、深くお付き合いすることが本質です。「貴方に信用供与をしますよ」と私たちが選んで、出資、預金してくれた組合員の皆さまに対して「こういった素敵な方が居るので、この方に皆さまの預金を回したいと思いますが、よろしいでしょうか?」と、このような話ですよね。その結果として社会に対して、さまざまな貢献ができるだろうし、そういったことをしていれば、預金や貸出、収益はついてくるだろうと思います。私たちは、他の金融機関ができないことを精一杯やり、カバーして、金融業界として社会貢献ができるようにしていきたいですね。


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