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ないのなら自分で創る


サイエンス作家 竹内 薫 さん 


 近い将来、仕事の半分は人工知能(以下AI)とロボットが代替すると予測され、これからの未来は、現代と大きく変わっていくでしょう。その時代に立ったとき、子どもたちに必要な教育とは何なのでしょうか。ただ知識を獲得するのではなく、変わっていく環境に適応するために「自分自身で考え、学び続ける姿勢」の重要さを、竹内薫さんにお話ししていただきました。
 (2017年11月3日奥出雲多根自然博物館 開催/こども未来シンポジウム講演より)


理想の教育を求めて

 私は子どものころ、父の転勤でニューヨークの学校に通うことになりました。帰国してからもカナダに行き、足掛け10年位英語圏で生活をしていました。その後、30年間科学分野で仕事をしており、その中で専門家とTVやラジオで話す機会が多く、未来のことをよく考えます。現在、日本には第4次産業革命が到来しており、この先AI時代が来るのは明らかです。その時に向けて「子どもの理想の教育はどのようなものか」を考え始めました。

 娘にも英語を話して欲しいと思い、英語の保育園を選択しました。卒園後の小学校をどうするか非常に悩みました。他県の小学校、インターナショナルスクール、バイリンガル(2言語を自由に使いこなすこと)のスクールなど、いろんな小学校を見て回りました。

 結果的に娘の能力を伸ばしてくれる学校が、日本では見つかりませんでした。例えば英語だけの学校だと日本語が使えません。今は全世界で17.5億人が英語を話しています。ビジネス、インターネットも英語なので、英語だけの学校でも不自由はないと思われるかもしれませんが、そうではありません。物を考える時、使う言葉は母国語(母語)です。日本国内で日本人として生きていくのですから、日本語は「考える言語」として中核にあり、必要なのです。しかも、バイリンガルの学校はプログラミングや、数学、理科など理系の教育が弱い。そこで、ないのなら自分が創りましょうということになりました。


枠組みを越えて

 当初、文科省の枠組みの中、国家戦略特区で認可される学校を創る予定でした。5000万円の資本金で始め、多くの協力者に助けられ、徐々に小学校を創れる状態になってきました。普通、学校は学校法人で創りますが、そうすると膨大な費用がかかります。また、新規参入で革命的な教育をやる場合は、その地域の学校関係者の集まりなどの認可が直ぐには下りにくのです。利益を相反する場合は、そのまま10~20年経たないと認可されない時もあります。そんなに待てません、娘は大人になってしまいますから。

 そこで株式会社にしました。株式会社立にすると比較的安いコストで創れます。校舎や校庭は借りればよいのです。国家戦略特区の申請は本来、地元の自治体がするのですが、私が住んでいる市は行政の仕組みがとても複雑でした。何度も陳情に行き、やっとOKをもらいました......。

 私は今、その学校の校長です。しかし、紆余曲折の末、なんと、現状はフリースクールで補助金は出ません。授業料は高くしたくないので、学校主宰のイベントを開催し、協賛を募り、本を出版し、講演会を開くなどして、持続するビジネスになるよう努力しています。

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スクール内での英語の勉強


AIが変える


 今後、多くの仕事をAIが代替し、人間の仕事は少なくなっていくと予想されます。
 例えば、アメリカで社会問題になっていますが、ルーチン(※)の計算をするだけの会計士は、AIの入った会計ソフトで事足り、仕事がなくなります。銀行の融資審査も個人と会社の全履歴、インターネットからのデータ、口コミも含めて全て収集され、その膨大な情報の中から審査がおこなわれます。物流の無人化も予想され、無人のコンビニは既に実験的に営業しています。入店して自分の欲しい商品を自分の鞄に入れ、店を出れば買ったことになり、商品を元に戻せば買ったことにはなりません。AIが全て確認し、カメラで客の行動を全て分析しているので、万引きも防止できるというものです。

 ある研究所が動画から抽出した1000万枚の猫の画像をAIに見せました。耳がとがっていたり、模様が違っていたりしますが膨大なデータを学習し「猫」を識別できるようになりました。自律学習といってよいでしょう。ゲームも教えていないのに試行錯誤で上達したり、AIは「人間らしいこと」を少しずつですが、やるようになってきました。
 将棋や囲碁なども、もしかしたらAIソフトの方がプロより強いかもしれないという時代になっています。

(※)決まりきった手順のこと、または、プログラミング言語でのある目的を持つ処理の集まり。


AI時代の教育


 2020年からプログラミング教育が必修になります。イギリスは2014年から始まっており、アメリカ、ドイツも次世代の教育に国を挙げて力を入れだしています。世界が急変する中、日本もようやく動き始めましたが、残念なことに周回遅れの状況です。AIには皆さん関心があるのですが、どう変わるのか、どうすればいいのかが切実な問題になっています。

 自分の子どもが成長し、就職してしばらく経った時に「あなたの仕事はなくなりました」と会社から言われたらどうしますか。そうなる前に、敏感に周りの空気を嗅ぎとり、察知して次を考える必要があります。また、予測ですが今の小学生の65%は現時点では存在しない新しい職業に就くといわれています。では、どういう教育をすればよいのでしょう。

 今は社会が大きく変わる第4次産業革命期と言われており、受験を突破すれば一生安泰だ、という時代は終わっています。大切なのは、計算式やパターン化されたルーチンを丸暗記するのではなく、子どもが「自ら知識を取りに行く」クセをつけること。誰かに与えられるものではなく自分で探求し、アクティブに知識を取りにいく。そういうクセがついていないと生き残れない社会になるのです。自分で考えて、自分で創っていく。大人が学び続ける姿勢を教えることがとても重要なのです。

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身体を動かす授業


創造性を持つ

 イギリスで第1次産業革命期に「機械打ち壊し運動」というものがありましたが、結局機械はなくなりませんでした。革命期には新しいものに挑戦して学び続けるしかありません。AIの時代はやってきています。今後、どういう仕事が生まれるのかは分かりませんが、恐れる必要はありません。AIが人間より優れていたり、AIが勝手に意思を持って何かを始めることにはなっていません。

 人間が持つ「創造性」はとても重要です。子どもたちが、学ぶことの楽しさを知り、自分自身で「どのように学ぶか」を考え、激変する環境に適応するために「学び続ける姿勢」を獲得すると、創造性に裏打ちされた素晴らしい知識が身についていきます。その創造性を生かし世界で発揮するために、日本語スキル、英語スキル、数学スキルや、プログラミングはとても重要なのです。

 子どもたちは一所懸命やります。自ら解答を探していくエネルギーがあり、講師が反対に子どもから教えられることもあります。これからの教育現場には多様性が必要です。企業も学校も、今こそ人材育成の革命が必要なのです。(了)



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<竹内薫>
1960年、東京都生まれ。サイエンス作家。
東京大学教養学部教養学科(科学史、科学哲学専攻)、東京大学理学部物理学科卒業。
マギル大学大学院博士課程修了(素粒子物理学、宇宙論専攻)。理学博士。
『99.9%は仮説』(光文社新書)、『子どもが主役の学校、作りました。』(KADOKAWA)など著作多数。NHK E テレ「サイエンスZERO」ナビゲーター、TBS 系「ひるおび!」コメンテーターなど、テレビ番組でも活躍。

2016年春に日本語、英語、プログラミング言語を中核にすえた「YES International School」と放課後学童「Trilingual Kids」を開校し、校長に就任。18年4月には東京校も開校。

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