『三つの言葉 』 1989年 猪熊弦一郎 画 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵  C)公益財団法人ミモカ美術振興財団

 最近「ヘリコプター・マネー」という言葉が横行し始めました。『ヘリマネ』とは国が返済不要の国債を発行、それを中央銀行に買い取らせ、お金をばらまくという金融緩和の究極的な姿です。その結果何が起こるか。行き着く先はやはりインフレでしょう。怖いのは、それが制御不能になってしまうことです。

 そんなインフレへの備えの代表的な資産の一つが金(ゴールド)ですが、実は金には大きな問題が存在しています。それは金鉱山周辺で起こっている甚大な環境破壊や、まだ幼い子どもたちを過酷な環境で働かせているといった人道的問題です。かつて、三城HD社長の多根弘師がモンゴルを訪れた際、外国資本がモンゴルの金鉱山を採掘した後の、荒廃した大地の悲惨な状況を見て心を痛めていました。また一部の国では、このような金を使用しているということで、宝飾の不買運動が行われています。

 今回は、(株)三城ホールディングスの社外取締役であり、スイスを代表する金の精錬加工メーカーであるPXグループの代表でもあるシャーヴ氏に、環境や人間に優しい、倫理的、人道的に配慮した金「エシカル・ゴールド」についての新しい取り組みをお伺いしました。


心からピュアなゴールドをお届けしたい
『エシカル・ゴールド』への取り組み

239tanet00.jpg
PXグループ代表取締役社長ピエール・オリヴィエ・シャーヴ氏



―― 2013年のシンガポールで開催された(株)三城ホールディングスの年頭会議で、財産の一部を金で所有する重要性をお話いただきました(この内容は2013年春季号の6、7ページに掲載)。その後、日銀をはじめ世界の中央銀行がどんどん金融緩和をすすめています。ますます金の重要性が高まっていますね。

 世界中の中央銀行が金融緩和をするということは、お札を大量に印刷することで、貨幣価値が下がっていくことを意味します。これは、一般の人々にとって切実な問題です。金の価値は不変ですが、貨幣価値が下がるのです。貨幣価値が下がっていく中、金のように価値が変わらないものに対する関心は高まるはずです。

―― PXグループは昨年ペルーの金鉱山と関連のあるカナダの企業に投資をされましたね。

 ペルーでは小規模の個人経営の金鉱山が多いのです。かれらは金鉱脈を見極める能力に優れていますが、金鉱石から金を取り出す際に水銀などの有害薬品を使用するため、大きな環境問題を引き起こしています。

239tanet04.jpg

239tanet05.jpg
金鉱山の採掘現場


 我々の投資したカナダのディナコール社は、金鉱石から金を取り出す最先端の技術を持っており、98%ときわめて高い抽出力を持っています。それと同時に、人体に害の少ない化学物質を使用することで、環境にも優しい方法で金を抽出することができます。
 ディナコール社は、金鉱山からより高い条件で金鉱石を買い取る代わりに、そこで働く子どもたちなどの人権を守らせることや環境保護を彼らに約束させています。実際に2つの学校建設を計画しており、まず図書館が設けられました。学校では子どたちに基礎的な教養を身につけさせるとともに、大人たちにも正しい爆薬の使い方を指導し、掘削作業の省力化にも貢献する予定です。さらに、彼らがトロッコなどの搬送システムなどに設備投資する際には、低金利で融資も行っています。このような協調関係を取ることで、質の良い金鉱石を安定供給してもらえるよう努力しているのです。

 金鉱山に関わる問題がもう一つあります。ペルーやボリビアなどではマフィアがその取引の仲介をしており、その金の取引で得た利益が麻薬取引の資金源になっているということです。我々PXグループが、原材料の生産から、金製品の精錬、販売まで、一貫したラインを管理することで、彼らの関与を排除できるのです。
 また、金鉱山の多くは、2000mから4000m級の深い山の荒れ地にあり、ほとんど作物が育ちません。ですから、金はそこの住民にとっては数少ない貴重な収入源なのです。そのような、彼らの生活や環境を守ることができることも、我々の大きな誇りです。

239tanet02.jpg

239tanet03.jpg
学校図書館落成式の様子(2016年5月8日)


―― 三城としても、本当にピュアな金をお客さまに販売できることを、たいへん嬉しく思います。

 現状としては、まだ週に20㎏から30㎏の産出で、弊社の金の全取り扱い量の約1%にしかすぎません。しかし今年に入ってさらに150㎞離れたところにある二つ目の金山とも取引を開始し、年内に100㎏までの増産を目指しています。将来はこのような倫理的にも問題ない金「エシカル・ゴールド」の扱いを100%にしたいと思っています。

―― 美しいデザインの新しいインゴットも好評です。

 特に、1gや2gなど小さいインゴットにこだわったのは今まで金に関心のなかった方にも、金に興味を持っていただき、お求めやすいようにしたいと思ったからです。さらに、持っていただくのなら綺麗で楽しいほうが良いと思い、提案させていただきました。この新しいコレクションの中に「PXインパクト」というシリーズがありますが、これが先ほどお話した、ペルーで入手した金で製造したものです。今後はこれらのインゴットを持っているだけでなく、指輪やペンダントとしても楽しめるよう提案していきたいと思います。
239tanet07.jpg

「エシカル・ゴールド」を100%使用した「PXインパクト」(右が表、左が裏)


―― スイス人はどのように金を所有しているのでしょう。

 ヴレンリィ(Vreneli)という22金(実際には1000分の900が金)の20フランコイン(6.45g)があります。これは1970年ぐらいまでつくられており、皆が持っているといってもいいほど普及しています。ただ、まとまった単位ではインゴットという形で所有しています。

―― スイス人と日本人は性格的には共通点が多いと思うのですが、一人あたりのGDPでみると、日本人の二倍以上と、とても豊かです。

 その理由の一つは、長い間戦争をしてこなかったことが考えられます。スイスが今の国の形になったのが1843年(ちなみに明治維新が1867年)です。それ以来本格的な戦争をしていません。戦争をしないことで、富の蓄積が可能だったのだと思います。それにより経済的にも長期で安定していました。さらに強調するとしたら、民主主義が機能しているということでしょうか。もっとも国際化が進む中、スイス独自の特徴というのは薄れていくかもしれません。

 私が日本人を好きなのも、双方の国民性が似ていることもあると思います。その理由は、それぞれが「島国」だからかもしれませんね。日本は文字通り「島国」ですが、スイスは高い山々で外の国と隔離されており、そういう意味では同じ「島国」といえます。

239tanet06.jpg
スイス高級時計の一大産地であるラ・ショー=ド=フォンにあるPXグループ社


―― 一方で、スイスと日本を比較して一番大きな違いが「自立心」だと思います。これは国との関わり方や、健康保険や電気料金などに表れていますね。日本や日本という国が頼りにしていたアメリカが頼りにならなくなるこれからの時代を考えると、日本人がスイス人から学ぶべきところは多いように思います。

 多くの国では、国王のような人間が存在し、国家の大部分をある個人が所有し、血縁によってそれが受け継がれてきたという歴史があります。一方、スイスでは歴史的にそのような存在はありませんでした。このように、スイスは国の成り立ちから他の国々と違っており、民主主義が根強く浸透しているのはその結果でしょう。
 スイス人は自分のことは自分で決めるのです。そのため、多くが選べるシステムになっています。

―― 最後に、(株)三城ホールディングスの社外取締役として一言お願いします。

 三城という会社は常に「未来」に向かって目を開いている会社であると思います。技術革新というものに対して、強い興味と関心を持ち、新しい発想や考え方を取り入れようとする態度も一貫しています。さらに、最も評価すべきことは、それが経営理念にあるように、まず「第一にお客様とその未来のために」という姿勢を崩さない点にあると思います。お客さまのために、より新しいものを役立てたいという思いが強いのです。そして、この精神はこれからも未来に受け継がれていくでしょう。
 そういう意味で、皆さまのパートナーとして大いに期待していただいて良いと思います。これから登場する新製品や新しいサービスを、ぜひ、三城の店頭でご体感いただきたいですね。

(インタビュー 多根幹雄)