イノベーションが開く未来

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イノベーションが開く未来

エスモード インターナショナル代表 仁野覚 さん


 エスモードはパリでナポレオン3世の時代に開校した、世界最古のファッション学校です。今や世界ヵ国で学校事業を展開し、成長著しい世界のファッション業界に毎年優秀な人材を輩出しています。そのトップとして20年近くエスモードの世界的な発展を推進して来られたのが、今回ご登壇いただいた仁野覚さんです。昨年の秋、パリの本校を訪問し、仁野代表のご講演を拝聴する機会がありました。その内容がとても素晴らしかったので、要約になりますが皆さまにも共有させていただきたく、今回掲載させていただきました。


進化するエスモード

 エスモードは1841年、ナポレオン3世の時代に開校しました。創業者のラビーヌさんはナポレオン3世の皇后陛下のお抱えの仕立て屋でしたが、皇后はめったにお会いできる人ではないので、彼女の体型をベースに「じんだい人台(ボディ)」というものを、さらにテープに目盛りを付け「メジャー」を発明した人です。もともとは仕立て屋さんのような人のための教育でした。1970年代からファッションデザイナーのための教育も導入しました。特に、70年代80年代というのは世界的にファッションが注目されて、それまでの「デザイナー」という呼び名でカタチをデザインする人から、ジャン=ポール・ゴルチエや、クロード・モンタナ、日本でも三宅一生や山本耀司など「クリエイター」という、もっとメッセージ性のある新しいものを世の中に提案する人たちが生まれてきました。

 我々の学校も、いかにして商品に価値をつけて顧客へ届けるか、あるいはマーケットで生活者は一体何を求めているのかということを科学的に分析するエキスパートが必要だということで、1989年にファッションビジネスの学校(ファッションを事業化する専門学校)を作りました。1984年に初めての海外校を東京で開校しましたが、現在では14ヵ国で21校のグループになっています。シャネルやエルメス、バーバリーなど、フランスのほとんどのメゾンに卒業生がいます。


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ラヴィーヌと彼女の発明した人台


世界では未来産業

 1990年代の日本のファッション産業は、約16兆円産業でしたが、今はなんと9兆円です。一方、世界でみるとファッション産業は2015年で140兆円産業ですが1990年代の日本のファッション産業は、約16兆円産業でしたが、今はなんと9兆円です。一方、世界でみるとファッション産業は2015年で140兆円産業ですが、2025年には270兆円産業になるといわれています。年間約6.5%の上昇です。

 1980年の初めごろ、私は日本で最初に学校を創ろうとしたときに、文部省(当時)に行って学校の認可を受けたいと思いました。それまで多くの服飾学校の実態は、よき家庭の子女を育成するところが大多数の時代だったからです。そこで、これからの国際化に向けてもっと産業を興すことが必要で、産業の担い手となる人材を作らないといけないと考えました。そして、私は授業の内容について話をしたいということで、フランス校のプログラムを持って、フランス人の先生たちに通訳もつけ、一緒に文部省に行きましたが「そんなことについて話ができる人は誰もいません」と言われてしまいました。

 結局、専門学校の認可は東京都ではなく区の担当ということでした。ただ、本質的に日本の国家は、日本の若者がどのような教育を受けることによって、自立した人格の人間をどう育てるのか、あるいは各産業に対して世界がこれだけ動いている時代に、他国と戦うためにも、こういった視点で人材を育成するべきだという国家としてのビジョンもないのだなと理解しました。

 一方、世界ではアパレル市場が将来2倍になる未来産業と思っています。ですから、我々はフランス拠点に「今何をすべきか」を議論しています。先週も外部の識者と、人工知能の問題、例えば、デジタルと非常にマニュアルでアーティスティックな教育とをどのように融合させていくのかを話しました。あるいは、3Dで立体的に物が作れるということは、ファッション産業界においてどのような可能性があるのかなど、そういったことを話合います。企業とも様々なタイアップしながらプロジェクトを進めていますから、常に前進しているなと感じています。

 フランス校も株式会社ですが、ちゃんとフランス国から学士号相当、修士号相当の免状をいただいています。完全にヨーロッパにおいては大学扱いです。ですからどの国においても国公立の大学と交換留学をしたり、教授やスタッフの交換ができる。この柔軟性が大事ですね。

 ついこの間まで、各産業界でも教育の為の税金というものがあり、教育を応援するシステムがありました。ルイ・ヴィトンやシャネルなどファッション産業界の総人件費の0.01%を基準に、我々の学校も年間約4~5千万円の援助金をいただいていました。こういった風に教育のための税金がダイレクトに確保できる仕組みになっているので、わざわざ役所に頼まなくても産業間でいろいろな改革ができます。よりダイレクトに、税金を国民が良いと思う所に払えるというのは非常に民主的でいいのではないでしょうか。


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ファッションも個性を認める時代になった


自らを全否定する改革を

 この10年のGDP(国内総生産)を見たら中国が13倍です。インドが5.7倍、インドネシアで3.5倍、ロシアでも3倍です。アメリカがこの20年で2.4倍で、イギリスが1.9倍、フランス、ドイツが1.4倍。日本は最近上がってきましたけど、この20年間で1.0です。おかしいですよね。2000兆円くらいに金融資産を国民が持っていて、304兆円も世界に貸していて、国民の総資産は8000兆円もあるって言っていました。そのくせ財政がどうのこうのって言っています。お金を回せばいいだけの話だと、素人の私は考えているのですけどね。

 イノベーション(技術革新)というものがないところには改革はできません。新しい商品がでるとマーケットのリーダーになります。しかし、リーダーは永遠にリーダーたりえない。リーダーは必ずそれに変わるものを創造したり、改革・改善をしながら、その延命を図っていかないといけない。日本でもだいたい企業の30周年説が言われるじゃないですか。何もしなければ30年で潰れるということです。

 例えば、コダックが倒産しましたが、なぜ倒産したと思います?デジカメの出現でフィルムが要らなくなったからですよね。じゃあ誰が世界で一番最初にデジタルカメラを考えたか。それはコダックの社員です。コダックくらいの会社だから社員は優秀な人がいる訳ですよ。経営陣に「これからデジタルでカメラができますから、そうなるとフィルムはいりません。試作はいつ作ります?」と。ところが、残念ながらコダックの経営陣は「お前何言っているんだ。我々の仕事はフィルムじゃないか。こんな物作ったら会社がなくなるじゃないか」と言ってボツにした。だから、潰れた。

 三城ホールディングスの前会長が「逆説的に、メガネ屋はメガネを売らなくてもいいようにするには、どうしたらいいかを考えないといかんよ」ってこういう話をよくしていたんです。それだけ自分のやっていることを全否定するくらいの所からでないと新しい改革はできません。


ファッションの新しいトレンド

 下のリストは2017年の注目ブランドのリストです。
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 ここに皆さんご存知のエルメスやシャネルがないのです。今までだったらエルメスとシャネルはこのファッション業界のランキングでは、東西の横綱ですよね。グッチは一時潰れかけましたが、また、若々しい比較的カジュアルな服で復活しています。ルイ・ヴィトングループもメンズのチーフデザイナーに雇った人は、アメリカ人の黒人です。ヒップホップ系音楽のラップが好きな人です。それが、フランスのラグジュアリーブランドのチーフデザイナーになっている。

 今までスポーティなものやカジュアルなもの...例えばストリート系のブルゾンが高級ブランドとして20万円や30万円で買ってくれるという概念がなかった。また、ヒップホップという文化はアメリカの中でも恵まれない人たちが住んでいる地域の中で注目されたもので、ラグジュアリーブランドとは対極にあるものでした。それが今は攻守を変えてランキングに入ってきている。ヒップホップ系の特徴はカジュアルな服の中にメッセージ性がある言葉を寄せて、自分たちの主張を伝えていることです。

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 例えば、上写真はバレンシアガのファッションショーなのですが、実は「世界食料機構」の電話番号が書いています。「世界では飢えた人は多くいます。私たちはそういった人々に対して何らかのサポートをしましょう」というメッセージです。

 それ以外にも社会的テーマを用いたものもトレンドになっています。トランスジェンダーというか性の差別の問題、サステナビリティ(持続可能性)も今、大きなテーマになっています。「子どもが奴隷労働をしているような場所で作っているものを買わないようにしましょう」といったこともあります。それからトランプさんに代表される「ナショナリズム」ですね。近年「グローバリズム」に関してはみなさんそろそろいい加減にしてよと思っている。アメリカは0.01%の人が大多数の富を独占してしまっている。それから#MeToo運動(性的被害体験をSNSで告白・共有する運動)。こういったいろいろな運動がファッションのトレンドで注目されています。今まで片隅に追いやられている人やコンプレックスを持っていた人。これはこれでいいと思います。多様性があり、ファッションの世界でもう一度みんなに光を当てようという時代です。


多様化する未来

 ファッション産業界は今までの概念がどんどん変わって多様化しています。これから2025年にファッション産業市場は倍になりますが、多様化して出てくることが考えられます。一方、AmazonやZOZOTOWNなどの通信販売会社は膨大な情報を保持しています。だから、どのグループがどのような商品が欲しがっているか分かる。このデータを元にデザイナーを自分たちで雇うか、デザイン会社にそのテーマで依頼する。安く大量に作らせて、今までのファッション産業を飛び越して、ダイレクトに顧客に販売するスタイルでファッション産業界に参入してくるでしょう。

 Amazonの日本での売上は恐らくもう1兆円を超えていると思います。日本のどんなに大きなファッション企業も2千、3千億円ですから、それはもう規模からすれば太刀打ちできない。ただ、そういったものと、先ほどのラグジュアリーブランドのような、いいデザインでいい素材で、いい技術を使ったものを購入する顧客もこれだけ経済が発展していますから、これらも必ず存在していくでしょうね。日本も若い優秀な人がどんどん巣立っているので、これからを期待したいですね。



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 仁野 覚(にの さとる)

1945年、大阪府生まれ。大阪芸術大学を中退して、渡仏。
エスモードパリのデザイン科で2年間学び、74年に卒業後、日仏をつなぐファッション関係のエージェントをフランスで設立。
84年にエスモードジャポン東京校、94年に大阪校を設立し、2000年より世界14ヵ国21校を展開するエスモードインターナショナル代表。