中米貿易摩擦に思うこと


中米貿易摩擦に思うこと


縦の糸と横の糸

中島みゆきの「糸」は、名曲である。

 ♪縦の糸はあなた、横の糸は私、織りなす布は、いつか誰かを暖め得るかもしれない♪

いつもこの見事な比喩に感心し、「いつか誰かを暖める」という言葉に、恋愛に留まらない普遍的なものを感じる。そして、貿易摩擦という言葉を聞くたびに、この歌を思い出し、歌詞を替えてみる。

 ♪縦の糸は私、横の糸は要らない、織れない糸は、誰の役にも立ちはしない♪
 ♪選挙のために、逢うべき糸に出逢わないのを、人は不仕合せと呼びます♪

メガネフレーム一つとっても、あるものは日中韓を行き来しながら一つの製品になる。世界中で愛用されるスマホも、アメリカや日本や中国の部品が集まって、その殆どは中国で加工され、そこから世界に向けて送られる。誰が何を言おうが、しようが、すでに多くの国は、国境を越えて交わるカネやモノやヒトという糸が複雑に絡まっている。人はその恩恵に浴し、また、それを強みにすべくお互いに知恵を絞る。その糸は容易にほどけない。

未だに、「人」ではなく「我が国」を主語にし、軍備やGDPの競争に重きを置く政治家は、感情に任せて簡単な言葉で糸を解こうとする。ただ、その企みは、普通の人にとっては迷惑な話でしかない。まして、選挙前に突然、しっぺ返しのように言い出すなんぞは、もう鼻白むだけである。


遠い空の下、2国の物語

社員の旦那さんの会社は、日米中の合弁会社で3カ国から集まる部品でスマホを作ってアメリカに輸出していたが、今回の摩擦でアメリカが撤退したそうだ。厦門(あもい)にあった工場は閉鎖され、多くの人が解雇された。アメリカの会社も消費者もスマホの値上げは厳しいに違いなく、まさに諸刃の剣である。雑貨を作る友人の工場は、アメリカに輸出できなくなって、対応策としてカンボジア経由でアメリカに送るために、プノンペンに会社を設立すべく視察に行った(アメリカはカンボジアへの税の優遇処置を行っている)。

帰国して感想を聞いてみると、プノンペンは、今、中国からの投資が盛んで至る所が、すでに中国に見えること、そして、高騰する不動産価格や投資の話に熱が入る。いずれ、カンボジアにも税金かかるでしょうと言うと、その時は、他に移せば良いだけと、こともなげに言う。「上に政策あれば、下に対策あり」中国で常に聞く言葉である。

「国益」、この言葉が昨今よく登場する。国を「あなた」に置き換えて考えたい。「私」を隠したい時ほど「公」を声高に叫ぶことになる。国家間の利害のぶつかり合いが無くなるとは思わないが、少なくとも、人々は「国益」という言葉が作りだす魔法に敏感になるべきだ。両国間の経済面の喧嘩で済めばまだ良いが、それだけで済まないこともある。どの国で生活する人も、人々が織りなした布の、温かい恩恵に包まれてほしい。


パリミキ 中国 棚田真文
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